13:52

「審判」はいま「商人ブロック 弁護士解約」のところまできた。これだけじゃなくカフカの小説はたいていどれもそうだが、その出だし、しょっぱなからかなり唐突な、強引な設定で開始されるわけだけど、というか、殆んど全編を通じてそういった唐突さが横溢していて、一歩先に何が待ち受けているのかわからない手探り状態で歩いていて、だし抜けに上から何かが降って来たり、平坦な道だと思っていた場所に突如大きな穴が空いたり…といったようなことがざらに起きる。だから本当に油断がならないし、毎度そういう唐突さに出くわす度に、「ええっ!」と驚くことになる。まさに唐突さの宝庫と呼んで差し支えない出来事の連なりであり、そのどの場面もがいちいち鮮やか過ぎて唖然とする。

それから、人物のやたらと長い語りだ。理屈として、一見とても筋が通っているように思われるが、それでもやはり最後まで聞いていると、結局何を言っているのだこいつは? と非常に困惑させられることになる、でもそれははぐらかしたり煙に巻いているのとは違う、きっと直截にありのままを述べているには違いないのだろうけれど、それが却って話をこんがらがらせているというか、訳をわからなくさせているかのような、今言ったことが次の瞬間、次に出てきた言葉によって即座に裏切られ、否定される、あの、かなり狂った論理展開にはやられる。癖になりそうなおかしさがある。

そして、やけにイキイキとした人物の動作、アクションの描き方は殆んど信じがたいほとである。いま適当に開いた頁から引用するが、例えばこんな場面。

挨拶がすむとすぐ彼はーー肘掛椅子に座るようにKはすすめたのだが叔父にはそのひまもなかったーー二人きりで少し話したい、と言いだした。
「どうでもそうする必要があるんだ」、と彼はごくんと唾を呑みこんで言った、「わしを安心させるためにもぜひそうしてくれ。」
Kはただちに小使を部屋からだし、だれも入れるなと指図した。
「わしが何を聞いたと思う、ヨーゼフ?」
二人きりになるやいなや叔父は大声でそう言って机の上に腰をおろし、少しでも座り心地よくしようと見境なくさまざまな書類を尻の下につめこんだ。Kは黙っていた。

あと、このKはなかなかの好色野郎というか、手が早くて、出くわす女ほぼ全員といい感じの雰囲気になるのだが、なかでもとりわけ凄いのが、彼は上記の叔父と彼の知り合いの弁護士の家へ、K自身の訴訟の件を相談するために出かけて行く。しかしKは相談そっちのけで、病身の弁護士の看護をしているらしいレーニとかいう女中?と、よりによって弁護士の書斎で、そのレーニとはその時が初対面であるにも関わらず、イチャイチャし始める。しかもそのまま何時間も叔父と弁護士をほったらかしにして、その挙句、叔父にブチ切れられるという…女に関することとなるとマジでどうしようもない奴で、このくだりは読んでいて大笑いした。