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「Each and Every」は今の活動に繋がる最も重要な作品です。料理人に会う前は、料理に対して、準備、仕込み、調理、盛付けという一直線の時間軸を想定していました。しかし、いざ撮影をはじめると、そんなに分かりやすい順番で彼は仕事をしていませんでした。会話も出来ないまま、ぼくはただ撮影をし、なんの説明もないまま、彼のひたすら自分の仕事に没頭している姿を映し続けました。彼はその狭いキッチンで、なにかの準備していたと思ったら、突然別のものを調理し、それを別の料理人に手渡し、途中までやったものを冷蔵庫に入れ、別の部屋に食材を探しに行き、まな板を洗ったりする。撮影が終わってから話を聞くと、翌日の仕込みだったり、別の料理人への賄いであったり、途中からは別の料理人が調理をする料理があったりと、外から見ても何をしているのかまったくわからないけれど、彼の中では複数のレイヤーが見事に整理されていて、実は順番通りに一直線に進んでいる。そこでは、なんというか、複雑な世界という出来事が彼の動きの中に凝縮されているような気がしました。当初、編集によってひとりの料理人の活動をばらばらに解体しようと思っていました。リニアな料理の流れを複雑なものに変えようという意図が最初にあったのですが、彼の活動はすでに十分すぎるぐらい複雑で、その順番を変える必要はありませんでした。むしろぼくはそこから多くを学びました。最初のビデオの話にも繋がりますが、ビデオに記録することで、些細な、しかし自分が見落としていた世界の複雑な経験が見えるようになった。料理人の活動の中にも、それが含まれている。こうした経験が、ビデオ内部の問題を考えるのではなく、目の前に起きていることから学んでいくという方向に少しずつ向かうきっかけになりましたね。