一日目

シネマ5で山中貞雄祭。

山中貞雄は1909年生まれの映画監督。
彼は28歳10ヶ月で没した。
彼が監督した映画で現存しているものはたったの三本しかない。
戦争によって大部分のフィルムは失われてしまった。
山中自身も徴兵され中国戦線で病に倒れた。
戦場でもシナリオを書いていたらしい。

初日は山中貞雄の追悼映画として撮られた「その前夜」が上映された。
タイトルは新撰組による池田屋襲撃の前夜を指す。
この映画とか観ると、新撰組って今でいうただの暴走族みたいもんだったんだと思う。
しかしこれは新撰組の映画ではない。
池田屋の向かいに建つ大原屋という宿屋の家族と、そこに滞在する絵描きなどを中心人物とした群像劇。
大原屋は池田屋に客を取られ閑古鳥が鳴いている落ち目の宿。
そこで生きる庶民の目を通して、幕末の京都や新撰組による池田屋襲撃を描いているのだけど、このアイディア自体がそもそも面白い。
「その前夜」は山中貞雄の原案を映画化したものなので、この発想は当然山中の頭から出て来たものなのだろう。
彼が20歳くらいのころに考えたものらしい。
凄すぎる…。

映画が終わってから映画評論家の山根貞男氏のトークショー。
初めて実物を見たがなかなかダンディーな方だった。
山根貞男氏は大意でだいたい以下のようなことを話していた。

山中貞雄の『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』は誰が観ても面白い映画だ
■『丹下左膳餘話~』をつまらないという人はどんな映画を観ても駄目だもう映画観るな
山中貞雄と名前が似てるが自分とは何ら関係ない
■「小津映画は全てホラーだ」と黒沢清が言っていた
■「山中映画は事物をありのままに差し出す」と川崎長太郎が書いていた
■(トーク終了後ロビーで)コーヒーはもういらない。