短編 メモ
※
私はクラスの男の子に一方的な好意を抱いている。
しかし彼とは言葉すら交わしたことがない。
私はある日、彼の手帖を盗んだ。
手帖はどうやらネタ帖らしかった。そこにはお世辞にも面白いとは云えぬギャグや不気味なタッチのイラストが書かれていた。
それから彼のものらしきメアドが書き記されていたので、
私は「いきなりごめんなさい!よかったらメル友になってくれませんか?」という旨のメールを彼に送りつけた。
ダメ元だったが、彼からの返信はすぐに来た。
「いいよ!メル友になろう!」
意外と軽い人なのかもしれない、などとという不安がよぎることもなく私は有頂天だった。嬉しさの余り鼻血。
彼とメル友になれた毎日は幸福だった。
ただし私がクラスメイトだとはばれないように他人を装って・・・。
ある日、彼が「君の写メールを送ってくれないか」と云ってきた。
自分の写真を送れば正体がばれてしまう・・・。
困窮した私は、苦し紛れに「これが私です」とお世辞にも上手とは云えぬ似顔絵を描いて彼に送った。
なぜか彼はそれで満足してくれたようだった。
(中略)
私の知らない彼がそこにはいる・・・。
しかし段々とそれだけでは満足できなくなってきた。
他人になりすましてのメールのやり取りに後ろめたさもあったし、
なによりも彼に本当の私を知って欲しいという欲求が沸いてきたのだった。
私は勇気を出して彼にメールを送信した。
「会ってくれませんか?」
彼からの返事はイエス。
待ち合わせの場所を決め、お互いを確認できるようなにか目印を付けていくことになった。
「僕はジャイアンツのキャップを被って行きます。君は動物の耳を付けて来て下さい」
当日、私は動物の耳を付けて約束の一時間前にその場所で待っていた。
帽子を被った男性を見ると過剰に反応してしまう。
しかし約束の時間を三十分過ぎても彼は現れない。
もう三十分待った。まだ彼は来ない。
私は彼にメールを送った。
「なにかあったの?私はもう着いてるよ」
・・・だが返事はないのだった。
結局、夜まで待ったが彼はついに姿を現すことはなかった。
翌日、体調を崩して寝込んでいる私の元に彼からメールが届いた。
「昨日はゴメン。携帯をトイレに落として修理に出していたんだ」
(後略)