ハイキング

国指定重要文化財であるところの柞原八幡宮に行ってみることにした。さいわい妻も休みだったので二人で出かけた。


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この案内板によると、柞原八幡宮まではここからおおよそ5キロの道のりであるらしく、5キロならば歩いても小一時間、天気もいいことだし、日頃の運動不足解消のためにもぜひチャレンジしてみようではないか、ということになった。まずはコンビニでお茶とパンとおにぎりを買った。着いたら食べる用である。それをかばんにつめこんで、高台にある住宅地のわりと勾配のきつい坂道をのぼっていく。じつに快適な気候で、足取りも軽やかに、調子よくずんずんと、どこまでも歩いていけそうな気分になる。


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しかし、早くも息が切れてきた。かなりのぼったなあと思う。それでもまだせいぜい二十分くらいしか歩いていない。眼下の景色はまあいいとしても、周りは家ばかりでまるでハイキングという感じがしないのは不満である。もちろんぼくたち以外に歩いてる人なんていない。たまに犬を散歩させている地元民らしき人物とすれ違う程度だ。


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途中途中にある道案内をたよりに進む。


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やがて、住宅地を抜けると人家もまばらになってきた。おまけによくわからない道に出てしまった。ほんとにこっちであっているのか。さっきまで所々にでていた道案内もなくなった。かれこれ一時間以上は歩いているはずなのだけれど、一向に目的地は見えてこない。めっきり口数も減ってただ黙々と歩を進めるだけの時間が長く続く。

だんだんと不安になってきたので一旦立ち止まり、ポケットからアイフォンを取り出してグーグルマップで検索してみることに。どうやら現在の道で間違いはなさそうだ。ただし、この地点から目的地までの所要時間約三十六分などと出ている。え! まだそんなに遠いのか……と愕然とする。しかしここまで来たら今更引き返すのもそれはそれで面倒くさいし、とにかく先へ進むしかないよなあ、とあきらめに近い投げやりな気分で、アイフォンの画面を見つめながら、しかたなくのろのろと歩き出す。グーグルマップのナビにしたがいつつ。


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その結果、このようなけもの道を行く羽目になった。
この道の先に目的の神社があるのだと思えばこんなものはどうってことはない。ちなみにぼくも妻も神社になどまったく興味はない。目的地云々ではなく、とにかく早いところこの行程を終わらせたい一心でいまは歩いている。
道はどんどん荒く、奥に行くほど木や枝が足元を邪魔して歩きにくくなっていく。さらに空を覆う木の割合が多くなっているのか、昼間にもかかわらずかなりうす暗くなってきた。いつになったらこのけもの道を抜けるのだろうか。アイフォンの電池も残量わずかになってきたのでそろそろ到着してくれないと困る。たよりのグーグルマップによると目的地まではあと五分。もう少しだ。目の前はおかまいなしに張り出した蔦や枝が進行方向をふさいでいたり、また、小さな羽虫の集団が中空にたむろしていたりして、たいそう進みづらい。

目的地まであと三分、二分、一分……というところまで来て、いよいよ完全に道が途絶えてしまった。前方には見渡すかぎり木しかない。
この時点でようやく、グーグルマップのナビが間違っていることを確信した。

さて。困ったどうしよう。とりあえずこのけもの道を抜けださなければならない。というわけで前に進むのはやめて(というかこれ以上進めない)道を横方向に歩いて行くことにした。しばらく行くと柵で囲われた畑に出た。ほったて小屋みたいな建物もある。しかし人の気配はない。畑の外周に沿ってぐるりと歩いて行くと舗装された道に出ることができたので少しほっとする。ただ、出たところがちょうどきれいに道が左右に分岐している地点で、これはどっちに進めばよいのか……。ぜんぜんわからない。そもそもここがどこなのかすらわからない。
足が棒だ。都合よくタクシーが通りかからないかと思い、しばしそこに立ち尽くしていたが、タクシーどころか一台の車も通らない。

とはいえ、このままここにこうしていても埒があかないので、どちらかに歩いていくしかなかろう、ということで適当に歩き出した道の向こうから、ちょうど人が歩いてくるではないか! すかさずその人(おじいさん)に声をかける。
「こんにちは」「はい、こんにちは」「あの、柞原八幡宮へはどう行ったらいいでしょうか」「柞原は、こっち」と言っておじいさんが指し示した方向は、ぼくたちが進んでいたのとはまるきり逆方向だった。

「私の歩調に合わせてくれれば案内しますよ」というおじいさんの言葉に甘え、速度を落として三人で歩く。どうやらおじいさんも柞原方面へ向かっているらしい。神社の前にバス停があるので、そのバスに乗るために歩いているのだという。バスがあるのか。だったらぼくたちも帰りはバスで帰ろう。と妻に話していると、おじいさんが、バスは次の十二時半のを逃すと夕方までないから乗るなら急いだほうがいいと言う。時間を確認すると、すでに十二時十分だった。

それから少し行くとまた道が二股になっている。その一方を指して、「あとはここを真っすぐ行けば目をつぶってても神社に着くから」と言うおじいさんにお礼を述べて、しっかりした足取りで歩き去っていくそのうしろ姿を見送った。


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やっと到着。


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神社には拍子抜けするほどなにもなかった。
詣でている人もだれもいない。お守り売り場のような場所に二三人の職員らしき男性がいたのだが、ぼくたちが着くなり皆どこかへ行ってしまった。どこに行ったんだろうかとキョロキョロしていると、少し離れたところにある事務所で皆して昼ごはんを食べている。無防備にカップラーメンなんか食べていて、とてもリラックスした雰囲気。おそらく昼休みなのだろう。時間もあまりないのですぐにまた石段を下ってバス停へと急ぐ。


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……バスはすでに行ってしまったあとだった。
待合所のベンチに座って、買っておいたパンとおにぎりを食べることにする。多少生温かくなっていたが背に腹は代えられない。
そばにあった案内図を見てみると、柞原八幡宮の裏手に二葉山原生林なる森がひろがっている。ぼくたちはきっとこの森に入り込んで道を見失ったのだろう。

帰りはまた徒歩である。トホホ。