2013-01-21

着の身着のまま木の実ナナ
隣で点滴を打っていたおじいさんが、ふと、そんな独り言を。
あるいはただの幻聴か。
もしかすると、僕が自分で、自分の知らないうちにそんなうわ言を口走っていたという可能性も。
…熱のせいで頭がぼーっとする。
朦朧とする意識の中で、浮かんでは消える、木の実ナナ
本名は池田鞠子。
いや、そんなことはどうでもいい。
木の実ナナのことなど、今は関係ない。
いい女だとは思うが、とりあえず今は、彼女のことは脇に置いておいて。
この点滴が終わり次第仕事へ向かわねば。
いやしかし、インフルエンザにも関わらず出勤って何なのか。

そういえば病院に来る途中、和民の社長に激似の学ランを着た男子高校生が物凄くニヤニヤしながら自転車をこいでいたような気がする。
いつかまた、どこかで彼に会えるだろうか?
なぜか強烈に印象に残っていて忘れ難い。

最近、爪が伸びてきた。
そろそろ切らないと、と思って爪切りで切った。
爪を切っていたのは時間にしてものの五分くらいだったと思うのだけれど、この時間ってどういう時間なのだろうか、と不思議に思った。
純粋に爪を切ることだけに費やしている時間。
一心不乱に爪切りで爪をパチパチ。
無駄とまでは言わないまでも、わりとどうでもいいような、たぶんこの先二度と思い返すこともないであろう時間。
あの日あのときの爪を切った時間が忘れられない……なんていうことはほぼないであろうし。
でもむしろそういう時間が人生の大半を占めているのかもしれない。

こうして、ここでこうやって点滴を打たれている時間も。