2013-06-17

 小津のカラー作品には至る所に赤い色が散見できる。画面のどこかに、カット毎に、ほぼ必ず赤い物が映っているのだ(赤いポストとか赤い手拭いとか…)。これは一体何なのか。おそらく特に意味とかはなく、単に赤という色が画面映えするからなのだろう。でも個人的に、その赤率が高い作品ほど映画自体も面白いという印象がある。その点で僕の小津映画ベストは(とはいえ勿論監督作品をすべて鑑賞しているわけではないけれど…)『お早う』である。まずタイトルが出てくるのだが、「お早う」の「早」という字がすでに赤い。その後本編が始まって三カット目くらいに早速、画面の右端の方に赤いドラム缶みたいなのが見切れている。それ以降も赤い色がばんばん画面に出てくる。
 昔、まだガラケーを使っていた頃、その携帯電話の動画機能を使って映画を撮ろうと試みたことがある。そのときに、小津に倣ってとにかく画面に赤い色を配置することを心掛けた。包丁でトマトを切っているところを撮影したり、赤い傘を差したり、赤い服を着せたりした。百円ショップで目についた赤い物を片っ端から購入した。その後撮影が頓挫して、大量に買った赤い物たちは非常に邪魔くさくなってしまった。力士のシルエットと共に、「NO SMOKING」とか書かれた真っ赤な幟なんてどう考えてもいらない。
 
 ちなみにこんなシナリオの映画を撮ろうとしていた。




私はクラスの男の子に一方的な好意を抱いている。

しかし彼とは言葉すら交わしたことがない。

私はある日、彼の手帖を盗んだ。

手帖はどうやらネタ帖らしかった。そこにはお世辞にも面白いとは云えぬギャグや不気味なタッチのイラストが書かれていた。

それから彼のものらしきメアドが書き記されていたので、

私は「いきなりごめんなさい!よかったらメル友になってくれませんか?」という旨のメールを彼に送りつけた。

ダメ元だったが、彼からの返信はすぐに来た。

「いいよ!メル友になろう!」

意外と軽い人なのかもしれない、などとという不安がよぎることもなく私は有頂天だった。嬉しさの余り鼻血。

彼とメル友になれた毎日は幸福だった。

ただし私がクラスメイトだとはばれないように他人を装って・・・。

ある日、彼が「君の写メールを送ってくれないか」と云ってきた。

自分の写真を送れば正体がばれてしまう・・・。

困窮した私は、苦し紛れに「これが私です」とお世辞にも上手とは云えぬ似顔絵を描いて彼に送った。

なぜか彼はそれで満足してくれたようだった。

(中略)

私の知らない彼がそこにはいる・・・。

しかし段々とそれだけでは満足できなくなってきた。

他人になりすましてのメールのやり取りに後ろめたさもあったし、

なによりも彼に本当の私を知って欲しいという欲求が沸いてきたのだった。

私は勇気を出して彼にメールを送信した。

「会ってくれませんか?」

彼からの返事はイエス。

待ち合わせの場所を決め、お互いを確認できるようなにか目印を付けていくことになった。

「僕はジャイアンツのキャップを被って行きます。君は動物の耳を付けて来て下さい」

当日、私は動物の耳を付けて約束の一時間前にその場所で待っていた。

帽子を被った男性を見ると過剰に反応してしまう。

しかし約束の時間を三十分過ぎても彼は現れない。

もう三十分待った。まだ彼は来ない。

私は彼にメールを送った。

「なにかあったの?私はもう着いてるよ」

・・・だが返事はないのだった。

結局、夜まで待ったが彼はついに姿を現すことはなかった。

翌日、体調を崩して寝込んでいる私の元に彼からメールが届いた。

「昨日はゴメン。携帯をトイレに落として修理に出していたんだ」

(後略)